事業の罠

事業の罠

浜田省吾の曲には、浜田省吾自身の心境を書いた一人称の歌詞が多い。ステージの上での気分やライブ後のホテルでの様子など、歌詞からプライベートな部分を窺えることもある。

 そこから、歌詞を通じて浜田省吾が体験してきた危機を読取ることもできる。

 例えば「路地裏の少年」では、「裏切りの意味さえも知らないで 訳も無く砕けては手のひらから落ちた」と述懐している。
 また、「終わり無き疾走」では、「サクセスストーリー 罠に満ちたゲームに奪われて見失い お前から遠く離れた」と唄っている。

 恐らく音楽業界には虚実に満ちた世界があり、浜田省吾もその中で翻弄されたこともあったかもしれない。
 そんな想像を掻き立てる「裏切り」や「罠」というキーワードでもある。

 音楽業界ではない一般社会でも、「裏切り」や「罠」という落とし穴は多いものだ。真っ当な人生を歩んでいても、何度かは信頼関係のトラブルや詐欺師との遭遇を経験するものだ。

 そんな危機の状況では、悲しいかな素直で人間性の良い人ほど騙されたり、ワリを食う羽目になってしまう傾向がある。
 嘆かわしいことだが、それも現実だ。ビジネスの世界でも、個人的人間関係でも、トラブルを回避する術を身につけておかねばならない。

 遠山は消費者契約についてのクーリングオフ通知書の作成代行をするホームページも運営している。
 その関係で、実に多くの悪徳商法被害や契約トラブルについての生の声を見聞している。

 そうした悪徳商法や契約トラブルには、いくつかのパターンが存在する。

 脅しや恫喝に基づくもの、ありえない儲け話で人の欲を刺激するもの、男女間の恋愛感情を利用するものなどだ。

 いくつか具体的な事例を紹介しよう。

 脅しについては、いわゆる押し売りが典型的だ。羽毛布団や浄水器などの訪問販売に、このようなトラブルが多い。
 夜の10時過ぎに訪問してきたかと思えば、巧みな話術で部屋に上がりこみ、「こんな時間に契約を断られたら、もう訪問できる場所が無い。これだけ話をさせた以上は商品を買え。」と恫喝するセールスマンが実在する。
 そこで怒鳴り返したいところだが、それもできない善良な人も多い。

 儲け話といえば、マルチ商法が氾濫している。マルチ商法とは、一般流通していない商品を口コミで売る販売組織だが、その仕組み自体は合法だ。
 しかし、販売組織への入会には数十万円の商品を購入する義務が生じ、経済的負担が発生する。勧誘時には「数人の友人に商品を販売すればモトは取れる。もっと頑張れば利益も出るので、月収100万円も夢ではない。」などと甘言も焚き付けられる。
 実際には、営業経験に乏しい個人に高額商品の販売能力は無く、利益を上げるには厳しいものがある。頑張れば頑張るほど、友人には疎まれて人間関係が崩壊していく。
 全てのマルチ商法が怪しいわけでは無いが、トラブルが多いことは事実だ。

 男女の恋愛感情を悪用するのは、デート商法だ。街頭アンケートや電話をきっかけとして、何度かデートを重ねる。最近は出会い系サイトを通じて接触してくる機会も多い。
 最初は商売の話は出さないことも多いが、数回のデートの後に展示場に連れて行かれ、そこでダイヤモンドや毛皮・絵画などを勧められる。そして、150万円程のクレジット契約を締結する羽目になってしまう。これは男女共に被害者は多い。

 悪質なところでは、事業者を専門に狙った詐欺集団がある。個人事業主も含む事業者は、消費者保護法制の対象外となる。そのためクーリングオフ制度が活用できない。
 そこに狙いをつけて、事業者に不当に高額な電話機やインターネット機器を販売し、リース契約を締結する。リース契約は一度締結すると、中途解約は認められないので、契約が覆ることは無い。(2005年12月に特定商取引法の通達が一部改正され、一定の条件が揃えばリース契約でもクーリングオフできる余地はできた。)

 商取引を装った取り込み詐欺も横行している。新規の取引先には誰でも警戒するものだが、数回の取引を正常に行って信頼関係を築き、その後で数千万円分の商品を取り込んで逃げてしまう手口だ。
 信頼関係を作るため、会社の実績などを様々な偽装をする。こんな取り込み詐欺に引っかかれば、勤務している会社の破産にもつながりかねない。

 今後は、団塊世代の退職金を狙った詐欺やトラブルが増加することも予想される。従来からある先物取引の勧誘、住宅ローン金利を軽減すると称したローン借り換えに絡む住宅リフォーム工事など、被害金額は甚大だ。
 また、定年後に起業を考えている人は、安易なフランチャイズ契約への依存は考え直した方が良い。フランチャイズ契約なら、販売ノウハウや顧客の確保を本部に頼ることができるが、計画通りの売上は立たずに店じまいすることも多い。そもそも独立して事業を行うなら、販売ルートを他人に依存する時点で間違っている。

 以上はほんの一例だが、悪徳商法や契約トラブルというものは、誰にでも接点があるということは感じ取って頂けただろうか。
 詐欺師が近づいて来たときに、怪しいと思う嗅覚を養わなければならない。とにかく詐欺師は早く契約をさせたいので、結論を急かす傾向がある。高額な契約を誰にも相談できない状況下において、からめとってくる。
 そのような詐欺から身を守るには、高額な契約については必ず複数の人に相談することだ。そうすることで、客観的に自分の置かれた状況を把握できるようになる。

 ビジネスはスピードとも言うが、このようなケースでは断じて即決してはいけない。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする