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挫折と闘志

 親子の相克というのは、小説や映画では普遍的なテーマとなっている。もちろん、音楽でも同じだろう。
 子にとって親は最初の社会との接点であり、成長するにつれて親を超えようとする。その際に生じる心理的葛藤は、文芸のネタには最適だ。

 浜田省吾にも当然ながら親子間の葛藤はあり、特に父親との衝突は凄まじいものだったようだ。

 浜田省吾の父親は警察官であり、今でいう転勤族だった。そのため、浜田一家は頻繁に引越しを経験した。
 父親は子煩悩で、浜田省吾も父を慕っていた。浜田省吾は父親の強い勧めもあって、まじめに勉強をして広島県内でも有数の進学校へ進んだ。

 それまでは平穏な家庭環境であったが、浜田省吾が高校へ入学した頃から、父親との関係がギクシャクする出来事が続いた。

 まず、浜田省吾はまじめに授業を受けなかったらしい。学園紛争や反戦デモの機運が高まっている時期に、利己的な進学のことしか話題に上らないクラスメートに辟易した。
 そんな進学校独特の雰囲気に馴染めず、野球部に入って部活に熱中したり、生徒会活動に没頭したりした。

 高校生活で溜まった鬱憤を、反戦デモへの参加や、職員室前でボブ・デュランの「時代は変わる」を独特の歌詞を付けて唄ったりして発散していた。
 そうした所業を警察官の父親が聞き及ぶに至り、親子の対立は臨界地点に達した。

「お前を過激派にするために高校へ入れたのじゃない。ワシは恥ずかしくて明日から仕事へ行けん。学校を辞めい。」

 こうして父親自慢の出来の良い息子は、その評価を暴落させた。社会的な反戦デモ隊と官憲の対立という関係を、家庭内にも持ち込んだのだから始末に終えない。
 大好きだった父の期待に沿えない苛立ちと、矛盾した学校や社会の仕組みにフラストレーションは蓄積される一方だっただろう。

 それでも高校を卒業し、浜田省吾は浪人生活を送ることになった。しかし、予備校に通うことはなく、遊びまわっていた。
 そんな様子を父親が知り、大喧嘩となって浜田省吾は家出をした。

 家を飛び出して転がり込んだ先は、京都に住む友人の下宿だった。その友人は彼女と同棲しており、一緒に暮らしていると何かと不都合が生じた。
 男女の気配を感じると、浜田省吾は遠慮をして野宿に近い生活をした。そんな生活を数ヶ月間送ると、風邪をこじらせて深刻な体調不良となった。

 そこで意地の張り合いを止めた浜田省吾は広島の実家に帰った。その時、父と母は何も言わず向かい入れ、それ以来浜田省吾は父親と喧嘩をすることは無かったという。
 その後はまじめに勉強をして、神奈川大学に進学した。

 これは有名なエピソードだが、遠山は大学生のときにその事実を知った。そして、成功する人物っていうのは家出の一つくらいしなくてはいけないのかと単純に思った。
 しかし、家出をして半年間も生き抜くエネルギーは、自分には無いよなと自己認識をしたものだ。

 現在でも親子の対立は社会にありふれている。しかし、親への反抗が家出や自立という方向に向かうのではなく、引き篭もってニートになるという形に姿を変えてきたようだ。
 引き篭もりは、子の成長や自立とは反対の方向に作用する。これでは何の解決にもならない。子が家出をするようなパワーも無く、ひ弱になっているのかもしれない。

 経済が成熟した今、社会のあらゆる場面で争いを回避する風潮にある。それが家庭の中にも浸透して、親子間でも本音を言わないという現象が生じていないだろうか。

 浜田省吾は不満を口にして行動することで、深刻な親子の対立を招いた。反発心は家出をするほど凄まじく、両親はそれを受け入れた。
 だが、これが現在の一般的家庭像であれば、恐らく互いに遠慮して本音をぶつけることなく心にシコリを残す方法を選択するのではないだろうか。

 つまり、子の反発心のキバを抜くことが日常的に行われるのだ。去勢された子は反発することもなければ、自立することもできない。

 大学に進学した後の浜田省吾は、学園紛争に明け暮れる大学に愛想を尽かし、半年で退学した。その後はミュージシャンとしてデビューして、売れない数年間を経た後でロック・スターの階段を登った。

 このように浜田省吾の人生は、決して順風満帆ではなかったのだ。普通であれば社会からドロップ・アウトしてしまうような試練を幾度と無く経験している。
 現在、受験失敗・ニート・自己破産・事業失敗・離婚など、さまざまな悩みを抱える人は多いだろう。それが原因で家庭も混乱してしまう局面もあるかもしれない。
しかし、諦めてしまえば道は続かない。今はどんなに低いところにいようと、必ず少しづつ階段を登る決意をすれば、過去の失敗が財産となることもあるだろう。

 浜田省吾の歌に励まされるのは、彼自身が苦悩を昇華させてきた経験を有しているからだろう。

 Never Giveup

 言葉にするのは簡単だが、事業を継続させたいなら、決して諦めないことだ。

投稿者 : 2006年04月12日 02:56 [ 管理人編集 ]