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絶対にやり通す決意

 ショービジネスに関わる人々の心意気を表すスローガンとして「SHOW MUST GO ON」というものがある。
 直訳すれば、「ショーは止められない」ということだ。雨が降ろうが、槍が降ろうが、戦争になっても、病気になろうが、破産しようが、親の死に目に会えぬとも、それでもショーを中止することは無いという壮絶な決意表明でもある。

 浜田省吾は足かけ5年にもおよぶロングランツアーのON THE ROAD 2001で、2001年のアリーナツアーのテーマを「THE SHOGO MUST GO ON」と決めた。
 これは浜田省吾の“ショーゴ”と「SHOW MUST GO ON」をもじったものだ。

 このスローガンをプロ意識と理解すれば、一般社会で働く人々も共感できる部分はあるのではないだろうか。
 例えば、鉄道マンであれば台風や大雪であっても、何とか列車の運行を継続しようと努力している。その関係会社の社員も含めて、運行を支えようと必死の努力をしている。
 だが、そうした努力は乗客は認識していなかったりする。ダイヤが狂えば心ない誹謗を受けることもあるだろう。それでも職業意識に燃えて列車の運行を地道に継続している。
 商社マン・銀行マン・スーパー店員に公務員など。誰もがプロ意識に燃えて仕事を継続しているから、日本経済は今日も回っている

 実は「THE SHOGO MUST GO ON」というテーマは、戦時下に近い環境でもその真価を発揮した。

 2001年9月11日。この日はアメリカで同時多発テロが起き、世界貿易センタービルと米国国防総省(ペンタゴン)が破壊された。この直後からアメリカは過度な警戒態勢を敷くようになり、日本国内でもアメリカ大使館や米軍基地の警備は厳しくなった。
 また、旅客機をハイジャックしたテロであったため、航空機を利用した海外旅行等は自粛ムードが漂い、旅行業界は大きな損失を出していた。

 そのような時期の10月13日に、浜田省吾は沖縄県の宜野湾で野外ライブを行っている。
 沖縄といえば、ご存知の通り米軍基地が密集している地域だ。9・11同時多発テロから1ヶ月しか経っていない時期で、人が集まるライブは危険であるという察しはつく。
 それは戦時下のピリピリとしたムードであっただろう。誰もがこの公演は中止した方が良いと忠告をしたそうだ。

 それでもライブを敢行した浜田省吾は、次のように語っている。

「 日本全体で考えると、米国の基地を沖縄に押しつけてるわけですよね。戦後の歴史でそうなってしまったんですけど。なのに本土に住んでいる人間が、“あそこが危ないから行かない”というのはあり得ないだろうと。だから“絶対にやらなきゃいけない。特にこの時期にやらなきゃいけない”と思ったんですね。
 ステージの上でも言いましたけど、“ジェット機の爆音で音がかき消されるようなことがあったとしても、それが沖縄の現実じゃないか”と思ってました。実際は、そんなことはなくて、のどかな雰囲気だったんですけど。」(日経エンタテイメント 2002年1月号より)

 誰もが身の危険を感じて敬遠するような時に、敢えてショーの継続をやり通した心意気はサスガとしか言いようがない。
 これが本当の“歌バカ”なのかもしれない。

 沖縄のファンも、このライブには特別の印象があっただろう。当然に中止になると思われていたライブを、危険を承知でやってくれた。
 米軍の厳戒態勢の影響で観光業はダメージが大きくなり、日常生活も不便な局面もあっただろう。そんな中で、普段と変わらず浜省がライブをやって元気付けてくれた。その行動力に胸を熱くしたファンは多かっただろう。
 そこまでやれば、ファンは絶対に離れない。

 日常のビジネスは、実は単調な仕事の繰り返しなのかもしれない。その仕事の一つだけを取り出してみれば、大したことはやっていないと思えてしまうものだ。
 しかし、それを毎日毎日繰り返し、風邪をひいても、身内に不幸があったとしても継続し、何十年もやり抜けばそれは周囲から絶大な信頼をされるものだ。

 何か事業を行う場合に、顧客から無条件の信頼を得ることができれば、それは大成功したと言えるだろう。
 その信頼は簡単には得られない。短期的に莫大な収益を上げることができても、事業としての信頼感は醸成されない。
 地味であっても、長期間安定して継続している事業こそ、真の評価に値すると言えないだろうか。

 その継続性というものが、例え戦時下となろうとも中断することが無いというのは、これ以上は無いアピールだ。
 つまり、何があってもやり通すという気迫がお客を安心させる。そこまでビジネスを徹底して継続すれば、お客は逃げない。

 私達の日常生活には小さなつまづきから、大きな壁までいろいろな障壁があるものだ。ビジネスでも同様だ。そんないろいろな困難から逃げず、地道に障害物を取り除いて仕事を継続していくことが成功への正攻法と言えよう。

投稿者 : 2006年04月12日 02:58 [ 管理人編集 ]