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浜田省吾と理想と現実

 理想と現実。浜田省吾の曲の中に度々登場するフレーズだ。理想は夢、現実は日常とか暮らしという言葉に置き換えられることもある。

 「J.BOY」-“掲げてた理想も今は遠く”“打ち砕け日常ってヤツを”
 「Midnight Blue Train」-“描いた夢と叶った夢がまるで違うのにやり直せもしない”
 「星の指輪」-“若い頃の計画(ゆめ)なんて もう思い出せない 忙しいだけの仕事に追われているうちに”

 このように若き日の理想や夢と、それに立ち塞がる現実について、葛藤する様子が描写されている。
 そんな理想について、少年期と大人になってからのとらえ方の違いを、浜田省吾は次のように語っている。

「 (子供の頃は)理想と違ったからといってゲンメツしても、それをつくったのは自分だからね。子供のころは家庭にしても学校にしても自分がイヤだと思うものは、みんな人から与えられたものでしょ。そこから飛び出すことがひとつの目標だし、それを拒否することが、ひとつのストレスのはけ口でもあるしね。ティーンエイジロックと呼ばれるものの詞の、唯一のポイントがそれでしょ。だけど、そこを過ぎた人は、自分のつくったものを捨てて出るか、それを壊してつくり直すしかない。それは、たいへんなことだよね。だれの責任でもないから、人のせいにもできないし。」(ef 1986年11月号より)

 つまり、少年期は理想どおりに現実が運ばないとき、それを人のせいにできる。実際、学校にしても企業の新人教育にしても、その枠組みを用意したのは大人の世代だし、それに不満をぶつけるのは少年の特権ともいえよう。

 かくいう遠山も、集団行動や規律を嫌う小生意気なガキだった。そのくせ、ひとりじゃ何もできずどこへ行くのかもわからない中途半端な反抗ぶりだった。
 授業を抜け出すことはあっても、タバコをふかしたりゲーセンでたむろすることは無かった。数学の授業をサボって、世界史の自習をするような意味不明の行動をしていたような気がする。

 このように特に明確な目的も無く、ただ大人が作った軌道に乗るのを拒むのは、ズルい対応だったかもしれない。拒否する以上は、自分で道を切り開かねばならないのだが、そんな苦労を背負う覚悟は無かった。

 それが大人になってからの批判の矛先は自分に向かうものだから、始末におえなくなってくる。何か不平不満を口にすると、その原因には少なからず自分の怠慢が含まれている。
 すると高校生のように、自分が潔白であることに勝ち誇って、無邪気に社会を批判することに引け目を感じたりしてしまう。
 それは動物愛護に目覚めた0Lが、ミンクのファーや皮のブランド・バックを買い込むことを止められない様なあざとさだ。

 そこで日々の暮らしに何らかの妥協をして、こんなはずじゃなかったという思いを封印する生活を送ることも多いのではないだろうか。

 そんな現実とは、疑問や不安、絶望や退屈などネガティブな感情を打ち消しきれないものだ。
 誰しもが抱えるそんな問題について、浜田省吾は解決を請け負うというスタンスはとっていない。

 ただ、ライブで良質の音楽を提供し、一時的な高揚感や慰安を感じ取ってもらうように務めているという。
 そして、ライブが終わっても参加者が前を向いて頑張っていこうと思えるような気分になれたら、それがミュージシャン自身の救いにもなると語っている。

 それでは、現在は30代~40代の働き盛りのビジネスマンたちが、若き高校生だったころ、どんな夢を描いていたのだろうか。
 強烈な特定の職業への憧れから、必死の努力をしてその職業に就くことを成功した人もいるだろう。

 ただ、多くは漠然と学歴のレールに乗り、深く考えることも無く進学をして、給与や処遇を比較しながら就職先を決めたというパターンでは無いだろうか。
 そしてほとんどの場合は、かつて憧れていた職業とは全く違うことをしている。

 だからと言って、就職希望の変節が悪いと言いたいわけではない。人は自分の適性について若いうちから把握できてはいない。また社会的環境によって、就業の選択肢が狭くなることもあろう。
 だから、特に何がしたいという明確な目標がなくても、まずは何でもやってみるという行動力が大事なこともある。

 そして岐路に立った時、その瞬間ごとに後悔の無いチャレンジができているかが大切だ。そんな時に迷いを断ち切るきっかけが、小説であったり音楽であったりするものだが、浜田省吾の曲が重大な決断の背中を押してくれたというケースも多いように思う。
 何しろ現代の詩人でもあり哲学者でもある浜田省吾が、時流と対峙しながら練りに練った歌詞をつくっているのだから。そんな優れた曲は時が経過しても支持されていくだろう。

投稿者 : 2006年04月12日 03:02 [ 管理人編集 ]