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浜田省吾に学ぶ事業安定への道

 80年代半ば以降のバブル経済では、土地や芸術作品などが投機の対象となり、三菱地所のロックフェラーセンター買収やソニーのコロンビア映画買収等の象徴的出来事があった。
 当時、東京の不動産価格は青天井と言われ、貸しビルやマンションは、その実質的価値以上の評価額で売買されていた。
 不動産オーナーは、物件を利用したいという本来の顧客の要望には応えようとはせず、より高値で売却できる相場師(ブローカー)との取引を熱望した。堅い職業と思われていた銀行も、このブームに便乗して怪しげな相場師に資金の供給を続け、バブル経済過熱に加担した。

 不動産は投機目的の相場師の手を経た後では、その価格は適正水準から乖離し、もはや誰もが手を出すことができない金額まで膨れ上がった。こうした現象は、土地転がしやマネーゲームと呼ばれ、海外からウサギ小屋と揶揄される狭いマンションを、ビジネスマンの高嶺の花としてしまった。
 その異常さに誰もが気づく頃になると、土地神話は崩壊し、バブル経済は一気にはじけた。バブル経済の後遺症を治すため、銀行は不良債権処理に躍起となり、企業は適正規模への回帰を図るため血の滲むようなリストラを敢行した。バブル崩壊後に、生活に窮したり、人生計画の軌道修正を余儀なくされたりして、辛酸を嘗めた読者の方も多いだろう。

 浜田省吾は1990年に発売したアルバム「誰がために鐘は鳴る」に収録された「詩人の鐘」の中で、「銀行と土地ブローカーに 生涯を捧げるような 悪夢のようなこの国」とバブルに溺れる日本経済を糾弾した。
 これは無理をして購入したマンションが、バブル崩壊後には評価額が暴落し、生涯をかけて支払うローンだけが残った多くの人達の心情を代弁している。
 そこには、マネーゲームを放置した国への怒り、重い負債だけを背負わされた人達への思いが込められている。

 「詩人の鐘」の発表から15年後の2005年には、マンションの耐震強度偽装問題が発覚し、翌年の2006年初めにはライブドア粉飾決算問題による東京証券市場の混乱が生じた。
 マンションの耐震強度偽装問題は、マンションの安全性よりも建設コストを下げることを優先し、利益を上げるためなら法律を侵し、住民の生命を脅かしても構わないという企業エゴを白日の下に晒した。
 ライブドアの粉飾決算や脱税問題は、球団買収や国政選挙に乗り出した時代の寵児ですら、赤字決算を黒字に粉飾して投資家を欺き、自社の利益をひたすら追求する現実を見せ付けた。
 これらの出来事は、事業の本質で利益を出すのではなく、違法な原価低減や投機で暴利を得て、そのしわ寄せを弱者に押し付けるという構図であり、15年前のバブル期と何ら変わらない。

 バブル経済と現在の耐震強度偽装や粉飾決算・偽計取引問題は、他人を泣かせてでも暴利を貪るという点が共通している。
 しかし、そのような政策や事業は長続きするものではない。人々の支持を得られなければ、短期的に利益を上げることには成功しても、その成功を継続し続けることはできない。
 実際に、バブル経済は崩壊し、耐震強度偽装をした建築会社は倒産し、粉飾決算で投資家を欺いた会社の経営者は退陣した。

 それでは、事業の本質とは一体何かと言えば、それは「顧客満足」に尽きる。どんな事業であっても、顧客の支持が得られなければ、長期間の安定経営は成立しない。顧客の支持を受けるためには、当然ながら事業者が提供するサービスについて、顧客の満足を得る必要がある。
 つまり、事業の本質とは顧客満足を得るために、継続的に努力をしていくことだ。これは会社経営全体でも、各自に与えられた部署や担当という現場でも共通してあてはまる。

 浜田省吾は、自らの最大のファン・サービスはライブであると位置づけている。この方針は決してブレていない。
 ライブ・ツアーを敢行するには、バンドや舞台装置等の裏方を引き連れて全国を移動する必要がある。大勢のスタッフを動員するからには、当然ながら経費も掛かる。実はミュージシャンにとって、ライブの経費は負担であり、利益性は良いとは言えない。
 単に利益を追求するなら、ライブは行わず、CDのみを多量にセールスする事を考えた方が効率は良い。ライブは極力行わず、テレビ出演でCDの宣伝を繰り返し、CDセールスを重視するミュージシャンも存在する。

 だが、浜田省吾は音楽業界では異色とも言えるスタイルを貫いている。それは、テレビ出演やコマーシャルやドラマとのタイアップはほとんど行わず、CDのセールス・プロモーションは控え目だ。
 一方で、採算性が良いとは言えないライブは、精力的に行っている。浜田省吾のライブは「ON THE ROAD」と呼ばれ、そのON THE ROADツアーのチケットは発売即日に完売となってしまう。
 ファンの間でも、浜田省吾のライブは年々進化しているとの評価が高い。デビューから30年を経過しても、更にライブの質は向上しているのだ。
 この質の高いライブを提供し続けることで、CDアルバムも安定数が売れている。つまり、浜田省吾はファンが喜ぶことを第一に考えて行動し、その上でプロモーターとして、採算性も両立させる手腕を発揮しているのだ。

 ファンや顧客を無視した利益追求では、事業は長続きしない。事業を長期安定化させるのは、徹底した顧客満足への取り組みに尽きる。
 事業者が提供するサービスに、猛烈なファンがつけば、経営は安定する。その基本を浜田省吾から学ぶべきである。

投稿者 : 2006年04月12日 03:05 [ 管理人編集 ]