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メガヒットが生まれない事情とロングテール

2006年夏に、浜田省吾は2枚のベストアルバムをリリースし、秋口からはホールツアーを開始している。
ツアーの様子は公式ブログでも紹介されており、その精力的活動に狂喜するファンも多い。

しかし、相変わらずテレビを中心とするマスコミに登場することは無く、チケット争奪の激戦をクリアしなければ、浜田省吾が歌い語る姿を目にすることはない。(DVD鑑賞できるではないか、というツッコミは遠慮して頂こう。)

浜田省吾が築いたセールス記録として印象に強いのは、1992年発売のシングル「悲しみは雪のように」(170万枚)と2000年発売のアルバム「TheHistoryOfShogoHamada“Since1975”」(150万枚)だ。
これらはメガヒット作品と言えるだろう。

当サイトの他ページでも取り上げているが、浜田省吾は音楽がセールス記録だけで語られる現象を危惧している。
音楽プロモーションがテレビと連動することでシステム化されて、ごく一部のメガヒット曲とその他の全く売れない曲に二極化する現象についても、警鐘を鳴らすコメントを多く発している。

このような圧倒的なマスコミの作用によって、ヒット曲のルールが定められ、音楽の多様性が損なわれることに憂いを表明する音楽関係者も多かった。
しかし、このマスコミによる画一的メガヒット曲垂れ流し現象も終焉を迎えそうだ。

そのキーワードは、現在の流行語といっても良いロングテールだ。

ロングテールとは、ワイアード編集長のクリス・アンダーソンが、その著書「ロングテール」で紹介した経済理論といえる。
音楽のタイトル数を横軸にして、個別タイトルの売上を縦軸にして売上順に並べると、上図のようなグラフが出来上がる。
このグラフの形が、首を伸ばした尻尾の長い恐竜のように見える。
その尻尾の長さを比喩してロングテールと呼んでいる。

クリス・アンダーソンの著書から事例を引用すると、アメリカの音楽業界では2000年を境にしてメガヒット曲が激減したそうだ。
例えば、2000年のトップセールス5のアルバム(ブリトニーやエミネム)の合計売上数は3800万枚だが、2005年のトップセールス5の合計ではその半分の1970万枚しか売れなかった。

同様に日本の音楽業界でも同じような現象は起こっている。
かつての浜崎あゆみや宇多田ヒカルは、アルバム・リリースの度に100万枚はクリアしていたものだが、近年ではそこまでの勢いは無い。
他にも100万枚を超えるミリオンセラーは生まれ難くなっている。

かつては恐竜の頭(ヘッド)の部分の売上に依存していた音楽業界だったが、このヘッドの高さが頭打ちになっているのだ。
その代わりに、尻尾(テール)の部分が横方向にどんどんと延びている。

これは音楽の提供がレコードやCDという有体物から、iPODや携帯電話、パソコン(MD)へのダウンロードという無形の形にシフトしていることがあげられる。
つまり、2000年付近までは楽曲を購入するにはCDショップの店舗に出掛けるしかなかった。店舗にはCDの陳列が限られるため、どうしても最新のヒット曲しか並ばない。よって、過去の名曲や浜田省吾のアルバムは目立たない位置にひっそりと置かれるだけだった。

しかし、携帯端末へのダウンロードや、アマゾンでCDを注文すれば、簡単に膨大な曲を入手できるようになった。曲のリストは無尽蔵で、しかも容易な検索手段も用意されている。
これはインターネットによる技術革新の賜物だ。

このように過去の曲も含めた膨大な検索手段を手にしたリスナーは、もはやテレビだけを情報収集の手段とはしていない。
そうしてテレビはメガヒットを作り出す神通力を失い、リスナーは携帯端末に自分の嗜好にあった曲ばかりを蓄積していく。
(ちなみに私の蓄積は圧倒的に浜田省吾が多いわけだが。)
その結果、より多くのタイトルが広範囲のリスナーに聴かれるようになり、いわゆる尻尾の長いロングテール現象が生じている。

浜田省吾やSONYミュージックも、そうした時流は把握して、曲のネット配信には積極的だ。特に浜田省吾のような30年ものキャリアを持つベテランは、豊富な名曲リストがあり、このようなロングテール現象によって掘り起こされる需要も増えていくだろう。

このロングテール現象は音楽業界に限った話ではなく、書籍や文房具をはじめあらゆる商品やサービスについても起きている話だ。
単なる現象ではなく、革命であるというとらえ方もある。確かにインターネット普及以前には、古い曲や無名のアーティストの作品を一般人が見つける手段は無かった。
その不可能を可能にしたのだから、これは革命なのかもしれない。(実際にクリス・アンダーソンは産業革命に匹敵する程の革命だと表現している。)

マスコミや大手商社に牛耳られた流通が、消費者の手に開放された。
確かにこれは革命かもしれない。

投稿者 : 2006年10月17日 22:53 [ 管理人編集 ]