« 浜田省吾と著作権 | ビジネスと分業 »

ビジネスとバランス感覚

 

ビジネスの現場では、何かと二者択一とか三者択一の選択を迫られる場面が多い。そんなときに、デジタル的にスパッと即決できることもあれば、双方の折衷案を模索することもあるだろう。

 そんなギリギリまで方向性に悩む案件に対しては、浜田省吾はどのようなアプローチをしているのだろうか。

「 長く音楽をやってる人間の難しいところでもあるんですけど、ずっと僕の音楽を聴いてくれているファンと、ポップスを旬のものとして聴いている幅広いリスナーとの接点をどう持てるかかのバランスですよね。例えば、今だと宇多田ヒカルさんとかラルク・アン・シエルとかGLAY、椎名林檎さんとか-ポップスのリスナーって、そういう人たちの曲を聴いている人だと思ってますから。
 もし僕が今、真っ白な新人としてデビューするとしたらどうするかということと、今までやってきたことにのっかって、これまでのリスナーだけを想定してつくること。僕は、そのどちらかに偏るのは嫌なんです。」(日経エンタテイメント 2000年5月号より)

 やはり自らの音楽活動に関する重要な方向性に関しては、バランス感覚を大事にしたいということだろう。古くからのファンの要望にも応えたいし、流行を追うリスナーの感性にも合う曲もつくりたい。その両方のバランスをとりながら、アルバム制作やライブの選曲に工夫をしているはずだ。

 このバランス感覚はビジネスのあらゆる局面でも求められるのではないだろうか。

 例えば、究極的なテーマとしてサービスの質の向上とコスト削減の問題がある。このサービスとコストの関係は対立することも多い。
 サービス向上とコスト削減、その片方のみを追求すると事業は傾いてしまう。

 ありがちな話だが、脱サラをして喫茶店やペンションを経営したいという人も多いだろう。そして、いざ夢がかなって開業することになり、気合が入りすぎることになる。
 とにかくお客様第一だからということで、出血サービスをしてしまう。減価償却も何も考えずに、夢の城に資金を投じて料金は良心価格に設定。その結果、赤字を垂れ流すことになり、「儲からない」と嘆くようになる。これでは経営とは言えない。

 逆に、ローコストの過剰追求も悲劇を呼ぶ。品質や安全性を犠牲にしてまでコスト削減を極めた結果、マンションの耐震強度偽装問題を引き起こし破産した会社もある。この問題では、単に事業者が破産しただけでなく、多数のマンション住民を絶望の淵に追い込んでしまった。その責任は大きい。

 やはり、物事には限度があるということだろう。サービス向上もコスト削減も、その片方だけを見て突き進むとロクなことにならない。
 かといって、サービスも価格も中途半端な状態では、シビアな日本の消費者には見向きもされない。サービスはイマイチ、それで価格はどうかと言えばこれもイマイチ。そんな事業者の気の迷いが伝わるようなモノは売れるはずがない。

 そこで顧客に支持されるには、高いレベルでサービスと価格のバランスをとることが求められる。サービスの質はできるだけ高く、コストは常識の範囲内で可能な限り抑える。それはとても苦労する作業だが、その過程を経て顧客の満足度は高くなる。

 そんなバランス感覚を大事にする浜田省吾だが、今までに蓄積してきた楽曲とファンからの評価だけでは満足していないようだ。
 常に新しいモノや時代の流行にも無関心ではない。

 2000年4月に新曲「・・・to be “kissin you”」を発表した際には、ファンの間でもその斬新さが話題となった。
 この曲のプロモーションビデオはアメリカで撮影され、ミュージシャンは現地で探したそうだ。その現地のベーシストは「日本の音楽はアメリカに比べて10年遅れていると思ってたけど、これはカッコいいじゃん。やらせてよ」と言ったという。(日経エンタテイメント 2000年5月号より)

 本音で物を言い、自分が良いとは思えない音楽に関与するのは拒む職人肌のミュージシャンからも、曲の斬新性や独創性を認められている。
 これは従来までの成功パターンに安住しない、創作に対して貪欲な姿勢を示している。

 遠山が取り組んでいる商業ホームページの分野も、変化が激しい激戦区だ。何か目新しいホームページができると、その1ヵ月後には競合ジャンルのホームページがガンガンと出現する。
 あまりに同一ジャンルのホームページが増殖していくので、数ヶ月でそのホームページが持っていた斬新性は損なわれるありさまだ。

 何か新しいサービスを開発したとしても、それが目新しく思える賞味期間は短い。そんな過激な競合が起きる現場では、絶えず改良や新ネタの披露が求められる。新しいネタを探してあれこれ考える期間は、本当に苦しいものだ。

 この改良や改善という発想は、何も音楽業界やIT業界だけに限った話ではない。製造業からサービス業まで、全ての業種で求められている。
 過去の実績に満足してしまえば、事業の成長はそこで終わってしまう。そういった実績を大事にしながら、更に新しい工夫を積み重ねていくバランス感覚を持つことが必要だ。

投稿者 : 2006年04月12日 02:28 [ 管理人編集 ]