« ロックへのセグメント化 | 顧客に優しいサービス »

経済市場成熟とネットの可能性

 

現在の日本経済市場は成熟して、なかなか新規参入のチャンスは無いように思える。ごく一部のIT関連企業が急成長をしているが、ライブドアの偽計取引や粉飾決算事件、光通信株の大暴落をなどの現象を見るにつけ、どことなく胡散臭く頼り気がない。

 マスコミは高感度の高い女優を使って大企業のCMを垂れ流し、消費者はそうして刷り込まれたブランド・イメージを信奉して、ヒット商品に群がる。
 結果として、大企業が提供するメガ・ヒット商品は誕生するが、新規起業者がそのようなサクセス・ストーリーにあやかる可能性はゼロに等しい。

 音楽業界でもテレビを中心としたマスメディアの影響力は大きく、そこに利権が発生する。とにかくテレビに関わる人々の意向に従わないと、ミュージシャンが楽曲をリスナーに知ってもらうことができないのだ。
 そんな現在の音楽業界事情を、浜田省吾は次のように語っている。

「 シングル(CD)を売るというシステムがどういうものであるかっていうのは-ユーザーの人は知る必要もないことなのかもしれないけど、いかに露出していくかと。そして、その中で最も力を持ってるものはダントツにテレビであると。テレビの中で最もたくさん露出するものはドラマの主題歌であったりCMであったりするわけですけど、当然そこからたくさんのヒット曲が出てそれがたくさんのお金を生んでるがために、ガッチリとしたシステムがもうでき上がってるんですよね。具体的にじゃあこの楽曲の何%、この楽曲が入ってるアルバムの何曲分の著作権をどういうふうに分配しろ、しなければ使わない-もうそういうところなんですよ。だから、ものすごくいい作品だからシングル盤として世の中に露出して、それがメガヒットになっていくというような時代ではもうないんですよね。」(BRIDGE 2001年10月号より)

 何という世知辛さだろうか。ファンはCMやドラマでも、もっと浜田省吾の曲を聴きたいと願っても、それには多額の宣伝費用をテレビ関連の各所に上納しなくてはならず、巨大プロダクションに所属しているわけでもない浜田省吾にとっては、その負担を背負えないという状況なのだ。
 世の中はカネと利権でよどんでいると嘆きたくもなるではないか。

 これはテレビという既存マスコミを通した場合の話だ。そのテレビが創り出すメガ・ヒットには上位集中という特徴がある。それは売れる曲は爆発的に売れるのだが、そんなメガ・ヒット曲数は年間ではそれほど多くない。
 一方、ほどほどに売れる曲というのは減少して、圧倒的多数の売れない曲の骸が荒野に転がっている惨状だ。
 何か少し前の戦力集中を図った読売巨人軍とプロ野球の関係のようではないか。

 実はこのような圧倒的な上位層とうだつの上がらない下位層に二極分化するのは珍しい現象ではない。
 ビジネスの現場でQCサークル活動なんかに取り組まれる方ならご存知だろうが、諸々の売上をパレート図とかABC-Z分析という手法で解析すると、成熟した市場は少数の勝ち組とその他大勢の負け組みに分化してしまう。
 飲食店で物を売るにも、人気メニューは集中していて、売れない商品は全く売れないものだ。

 だからと言って、売れない商品が粗悪品かといえば、そんなことは無い。単に陽の目を見ないだけだ。

 そんな売れない組のやるせなさに、かすかな光を与えるのがインターネットだ。インターネットの可能性を雄弁に示す事例として、アマゾンの書籍販売がある。
 書籍も音楽業界と同様で、ベストセラーとその他大勢という売上構成が出来上がっている。そのため、取次を経由した一般書店では、ベストセラー本しか置かれないという現象が起きている。
 マイナーな書籍であれば、ほとんど店頭で見かけることはなく、注文しなければ入手はできない。当然ながら、そんな本は売れない。

 しかし、アマゾンはインターネット上で無店舗販売をしているため、在庫リスクを考える必要がない。そのため、マイナーな本でも取扱をする。
 すると消費者は、店頭では見かけない本を検索で見つける喜びを知り、これを積極的に活用するようになった。結果として、アマゾンでは売上の三分の一を非ベストセラーで占めるという快挙を成し遂げた。
 ここに成熟市場でも挑戦者が切り込んでいける道筋が示されたと言えよう。

 浜田省吾も意識しているかどうかは不明だが、わりとインターネットの活用には積極的だ。ROAD&SKYやSONYミュージックの公式ホームページでは、ビデオクリップ視聴やファンに向けたメッセージを提供している。
 携帯電話向けのコンテンツとして、着うた配信にも積極的だ。更にはsuicaによる日本初の電子ポスター予約や、ConnectedDを活用したCD購入者に対するファン・サービスも実施している。
 2005年には新曲「I AM A FARTHER」の発売にちなんでYAHOOとタイアップしてブログを公開したりもした。

 インターネットは現段階では既存マスコミの影響力が小さく、検索エンジンとの親和性が良ければ、不特定多数のエンドユーザーに直接働きかけることが可能となる。
 テレビを利用しないで、そんな芸当ができるのは、インターネットくらいだろう。これを活用しない手は無い。

 そんなわけで、テレビに振り向いて貰えない起業家達は、こぞってインターネットを利用する。僕自身もそんな一人だ。(浜田省吾はテレビに振り向いて貰えないのではなく、自らの意思でテレビ出演を拒否しているのだから、事情はことなることはお断りしておく。)

 成熟市場の閉塞感を切り崩すツールとしてインターネットを活用すれば、まだまだ面白いことはできそうだ。

投稿者 : 2006年04月12日 02:37 [ 管理人編集 ]