« 浜田省吾と幸福論 | 浜田省吾と日米文化 »

浜田省吾と仕事

 ビジネスマンは一日の大半を仕事に費やしている。仕事というのは職場での労働だけを指すだけではなく、家庭での家事労働も含まれる。
 だから、いわゆる専業主婦(主夫)も仕事に割く時間は大きい。人生の中で、仕事をしている時間が最も割合的に多くなる人がほとんどだろう。
 ちなみに、遠山は睡眠時間が長いタイプだが、できれば仕事よりも睡眠時間を長く出来ないだろうかと密かに願っている。無論、それは叶わぬ夢だが。

 その人生の中で最も多くのエネルギーを投入し、多大な時間をかけているのが仕事なわけだ。
 すると、仕事が充実して楽しくて仕方が無い人というのが、最も人生を上手に生きている人だと言えないだろうか。仕事が楽しければ、一日の大半の時間が快適に過ごせるということだから。

 そこで、浜田省吾は「仕事」についてどのように考えているかを探ってみよう。

「 仕事っていうのは、ただ、お金をもらって生活するためだけのものだったら、どこか寂しい気がするんですね。人は社会的な生き物ですから、仕事をすることによって、社会の中のつながりとか誰か人のためになっているとか、そういう存在価値みたいなものを見出せたらすごく幸せだと思うんです。
 主婦っていうのも、やっぱり仕事だと思うんですよ。家族をケアしながら子供を育てていくことも社会とつながってることだし。その中で社会に対する存在価値を見いだせなくなっているとしたら、不幸なことだという気がします。」(日経エンタテイメント 1999年12月号より)

 納得である。現代社会は物の生産や流通が高度化して、仕事の内容が分業化・細分化されている。
 過去においては、仕事の企画段階から原料仕入れ、加工製造、運搬、販売に至る過程を少人数でトータルに実施されていた。

 それが社会の経済システムが高度化するにつれて、各作業が分担されるようになり、それぞれの作業現場でのスペシャリストが誕生した。企画立案のプロ、バイヤーとして凄腕を発揮する営業マン、神業とも言える加工技術を発揮する熟練工。それぞれが極めて狭い範囲でのプロフェッショナルぶりを発揮する。

 例えば、工場の中で精密回路のハンダ付けの作業を任された場合、ただひたすらにハンダと格闘する。黙々と作業をこなすうちに、その作業速度は神の領域に達し、プリント基板の極小の不良についても一瞬で見抜く超能力を会得するようになる。
一方で、それ以外の仕事が見えないわけだから、同じ会社にいても他の人の作業内容は不明だったりする。ハンダとプリント基板についてはプロになっても、自分のやっていることが社会のどこで役に立っているか、その根本的なことを知らないということもあるだろう。
上司も、この部品がどんな製品に使われるのか教えてくれないことも珍しくない。

そんな状況で、朝礼時に「お客様のために貢献しろ」とか「仕事に誇りを持て」と言われても、それは虚しいスローガンとして耳の左から右へ抜けていくだけだろう。
何しろ、自分がどんなお客様に対して、何を作っているのかわからないのだから。

 逆に消費の場面でも同様だ。今晩の夕食の刺身について、その生産や流通過程に携わる人々の苦労にどれだけ意識はいくのだろうか。
 魚が切り身になるまでは、養殖業者の手で何ヶ月も世話をされた魚が水揚げされ、鮮度が落ちないうちにトラックで運ばれ、加工センターで切り身にされる。その後、店頭に並ぶわけだ。その間では熾烈な価格交渉があって、そこでストレスを抱える人もいるはずだ。

 スーパーのバイヤーは納入業者の価格を買い叩き、納入業者は漁師を叩く。尊大な大口顧客が小規模な納入業者に無理を言うという連鎖が延々と続いていく。

笑い話で、小学生に魚の絵を描かせると、切り身が泳いでいる絵を描いたという話がある。夕食の刺身が、水族館で見たことのある生きた魚のパーツであるということが認識できないのだ。無論、お母さんが魚をさばいているところを見たことは無い。魚は切り身で買ってくるものだと学習している。
それほどまでに現代人は、かつては自らの手で行っていた工程の一部しか見ることができず近眼になっている。

 そんな断片的な日常を繰り返していると、自分が社会の中でどのような役割を担っているかを感じ取るのが難しくなる。
浜田省吾も語るように、社会とのつながりを認識しないことには、人間は孤独や疎外感から開放されることはない。面倒に思える作業になるかもしれないが、自分のやっている仕事が何の役に立っているのかを調べ、その全工程や全体像を把握する努力を行い、それを家族と語って確認することが幸せにつながるのかもしれない。
 自分がやっている仕事がどんな役に立っているのか、それをイキイキと語る様子が子供たちにもまぶしく映るだろう。

投稿者 : 2006年04月12日 03:23 [ 管理人編集 ]