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独立した個性の集合体

 浜田省吾のライブ・ツアーは、当然ながらファンには熱烈に支持されている。しかし、バンドのメンバーやスタッフには過酷な日程となるようだ。

 ツアーというからには、日本中の主要都市や地方都市を巡回する。過去には、バンドメンバーは26泊27日の旅というような状況が日常となってしまうこともあったそうだ。スタッフに至っては40泊なんて事態にもなる。
 これでは自衛隊の潜水艦乗りのようなライフスタイルになってしまうだろう。

 そのようなツアーが定期的に続けば、当然ながらメンバーやスタッフ個々の家庭生活に影響がある。
 アパートを引き払うことを余儀なくされたり、恋人と別れたメンバーもいるという。

 実に過酷なライブ・ツアーではないか。

 それでも、ライブ・ツアーである「ON THE ROAD」は長く続き、メンバーやスタッフも楽しんでいる様子はファンクラブ会報から伝わってくる。
 そもそもファンを楽しませるライブで、主催者が苦痛のみでやっていたら、興行として成立しないだろう。
 バンド・メンバーやスタッフは、ライブ・ツアーという共通目的に結束する運命共同体であり、そのチームワークがライブという事業の成否を分けると言えよう。

 そんなバンド・メンバーに対する浜田省吾の認識は、次のとおりだ。

「いっしょにやってきた人たちは、僕の曲がすごく好きでやりたいからやったというんじゃないと思う。
 そんなに話は美しくないし、僕だって特に昔は、みんなが“これはいい曲だ”と思えるような曲をたくさん書いてたとは思えないからね。(中略)
 その中で、僕といっしょにやるということは、ある部分では仕事だし、経済的なもの。(中略)
 あるソング・ライターがいてそのバッキングでレコードをつくったりステージをやるミュージシャンというのは、基本的に個人ですよ。若い頃はそれ以上のものを望んでいたこともあるけど、それは望むほうが無理というもの。ただ、いいミュージシャンはどんなものにも全力を投球するし、楽しむ。それが観客にも伝わるでしょう。」

「セッションをやるミュージシャンというのは、みんな自分の夢を持ってる。でもそれは別にして、どれだけそのときに全力で、いいバイブレーションでやってくれるかなんです。お仕事っていうふうに見える人もいるのね。僕が全力をかけているのに後ろで仕事をしている人がいると雰囲気が醒めるでしょう。」(以上「ROAD&SKY 60号」より抜粋)

 つまり、いいライブをつくるためには、良いミュージシャンを揃えなくてはならない。しかし、良いミュージシャンは個人の目標があり、いつまでもライブに協力してくれるとは限らない。
 そうしたシビアな現実を認めつつ、目前のライブに全力投球を続けるわけだ。確かに独立を考えるくらいの意欲を持った個人でなければ、音楽の才能を研ぎ澄ますことはできないかもしれない。

 事業を継続するという観点で考えれば、いずれ独立を考えているような人材をチームの中に入れるのは、和を乱す行為にも思える。
 しかし、チームを全てイエスマンで揃えてしまえば、そこは指示待ち人間の溜まり場となってしまい、組織の活力は生まれてこない。
 継続させることを自己目的化してしまうと、その組織は顧客サービスという視点は欠如し、自己防衛に向かうようになる。その先に待つのは衰退だ。

 一方、乱暴のようにも思えるが、独立志向が強い人間でチームを組めば、その瞬間に発揮するパフォーマンスは大きくなる。
 その時点で最高の顧客サービスを提供することだけを考えれば、外部のエキスパートを呼び込むのも有効となろう。

 本当に強い組織というのは、構成員に滅私奉公を求めたり、上位下達で縛りをかけたりすることでは作り上げられない。
 組織の一人一人が確立した個性を持ち、その優れた個性を共通目的のために結集させる過程が大切だ。もちろん、個性の強い人材でも、組織に所属する間はルールに従わせる必要はあろう。

 理想を言えば、優れた個性の集合体をカリスマのリーダーが強烈な理念の下にまとめていくのが最適だろう。しかし、現実にはそう簡単にはいかないことは誰もが承知している。
 自分の職場や所属している組織をふりかえれば、マニュアルで縛らないと行動しない人も多いかもしれない。何の意味も理念も無く、無理難題を押し付けることしかしないリーダーも存在するだろう。

 遠山もサラリーマン生活は13年ほど経験したが、組織の中の人間関係は難しいものだと痛感してきた。個人の努力では変えようが無いと思える問題は多い。
 その結果、独立してフリーになることで、職場の人間関係からは開放されている。今のところは部下が欲しいとも思わない。(もちろん、上司もいらない)。
 しかし、様々な局面で集団や組織に属することは多いものだ。

 強い組織をつくることを“理想論”だと決め付けてしまうと、そこからは何も生まれない。一人一人が自己の能力を高めることに関心を持ち、組織がそれを支援しつつ構成員の意欲を引き出す。そんな循環を生み出せる人が、真のリーダーといえるのではないだろうか。

投稿者 : 2006年04月12日 03:13 [ 管理人編集 ]