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世代の蓄積

 浜田省吾のファン層は実に幅が広い。ライブ会場に行けば、下は親に連れられた小学生から、上は70歳近くの年配の方まで、様々な世代のファンに出会うことができる。
 それだけ世代分布の広いロックのライブというのも珍しいのではないだろうか。

 どうしてそれほど支持層が広いかといえば、やはり30年間の音楽活動で蓄積してきた曲のバリエーションの豊富さだろう。
 その30年の間に、浜田省吾は23歳から53歳となった。それぞれの時期に、その世代の視点で真摯に曲つくりをし続けた結果、10代から60代までの世代が共感する曲のラインアップが出来上がったと言えよう。

 「19のままさ」では、予備校生の儚い恋愛を唄い、学生や若い社会人の共感を得ている。「星の指輪」では、子供のいる夫婦が束の間のデートを楽しむ様子を描いた。「君と歩いた道」では、老境に達した視点から人生をふりかえる。

 このように浜田省吾の曲には30年分の蓄積があるのだ。これはどんな大ヒット曲を生み出すミュージシャンでも、簡単には真似のできることではない。

 10代のミュージシャンが50代の境遇を歌にしても説得力は無い。逆に50代のミュージシャンが新たに10代の心情の歌をつくってもリアリティに欠けるだろう。
 やはり、浜田省吾がそれぞれの時期で、そのときの思いを真剣に曲にしてきたから、例え古い曲であっても支持されるのであろう。

 例えばアルバム「J.BOY」を現在の高校生や大学生が聴いたとしても、充分にインパクトある仕上がりになっている。
 だから、10代や20代のファンも新たに獲得することができているのだ。

 ところで、音楽CDのメインの購買層は10代だという。かつて10代であった現在の30代や40代の世代は、昔はよくアルバム購入をしていたはずなのに、現在はあまりCDを買わないらしい。
 遠山も現在30代だが、確かに浜田省吾のアルバムを除いては、音楽CDを買うことは少なくなった。

 そのためか、音楽の制作会社は10代をターゲットとしたマーケティング活動を展開している。
 必然的に若いミュージシャンが重宝され、そのミュージシャンが加齢していくと賞味期間切れのような扱いをする。
 ミュージシャンが年を重ねたとき、同一世代の共感を呼ぶような曲つくりをするのが、何だかタブーとされるような雰囲気もある。

 これはマーケティングの功罪ともいえないだろうか。

 確かに統計的に裏付けのある10代を対象とした曲つくりは、マーケティング的にセオリーなのだろう。
 しかし、それがウケるからといって、長期間ずっと同じ手法で特定マーケット層に向けた商品(曲)供給を続けたら、やはり人間は飽きてしまう生き物なのだ。
 10代が成長して20代や30代になったとき、自分の気分にあった音楽を耳にする機会がなければ、CDを買おうとは思わなくなってしまう。

 つまり、若年層を対象としたマーケティング活動が、人口比の多い30代以上の年齢層を置き去りにしているともいえよう。
 短期的には10代の購買層への訴求は正解かもしれないが、長期的にはより大きな市場を喪失していると言えるかもしれない。

 折りしも、日本の人口構成は少子高齢化に向かって突き進んでいる。この先、10代のマーケットは益々縮小していくのだ。
 都心部であっても小学校の学級数は減り、統廃合が進んでいる。地方になると、もっと事情は深刻だ。

 そんな縮小していくマーケットに照準を固定し続けるのは、やはり正気の沙汰ではないだろう。若手のシンガー・ソング・ライターが登場して、ヒット曲を連発する様子を伝える歌番組には、かつての太平洋戦争末期の大本営発表を連想させられる。
 ああ、音楽制作者側も必死なんだなと。もちろん、遠山はリアルタイムで大本営発表を聞いたことは無いわけだが。

 もちろん、今後の人口動態などは音楽制作会社はキッチリ把握している。そんなことは言われなくてもわかっている。30代や40代を対象とした曲を、それなりのドラマとタイアップしてプロモーションをしていると主張するだろう。
 それでも30代以降の世代は手強く、なかなかCDを買おうとしないと弁明するに違いない。

問題は根深く、30代以降の年齢層に支持されるミュージシャンを育てる努力を怠ったのではないだろうか?
10代の小娘に「オヤジ!頑張れ!」という応援歌を作って貰ってもありがたくはない。では同世代のミュージシャンはというと、バンドを解散してしまったり、アルコール依存の末に自殺してしまったりして、多くは現役でなかったりする。

幅広い支持層を獲得している浜田省吾に頼りたくとも、浜省はテレビに出ないというのが定説になってしまった。
 新しく30代や40代にウケるミュージシャンを育てるには時間がかかる。

 それ故に、浜田省吾は30年間という音楽活動の蓄積が最大の武器とも言えよう。このキャリアは誰にも真似ができない。

 ビジネスにおいても、その時期に応じて積み重ねてきた商品開発や顧客からの信頼が、何にも変えがたい財産となるはずである。
 やはり“継続は力”なのである。

投稿者 : 2006年04月12日 03:12 [ 管理人編集 ]