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公平感とコンプライアンス

 浜田省吾の所属事務所であるROAD&SKYは、公式なファンクラブも運営している。普通、ファンクラブ入会のメリットと言えば、真っ先に思い浮かぶのはライブ・チケットの優先予約ではないだろうか。

 人気ミュージシャンのライブ・チケットは、競争率が高くて簡単には確保できるものではない。イベンターのチケット発売日には、予約のための電話回線が繋がらず、何時間も待たされることは珍しくないだろう。

 そういう事情を知っているからこそ、ファンはファンクラブにチケットの優先予約権を期待する。
 ミュージシャン側もファンクラブの優先予約で入場者数を確保して、囲い込みができれば都合が良いだろう。そうすればライブの収支予測も立てやすくなる。

 しかし、浜田省吾の公式ファンクラブはチケットの優先予約をしていない。ホームページのファンクラブ入会案内にも、「チケットの優先予約はしません」とハッキリ告知している。

 これを意外と感じる人は多いだろう。遠山も過去に幾度と無く次のような会話をしてきた。

遠山「今度、浜田省吾のライブがあるんだけど、なかなかチケットが取れなくて困るんだよね。」

友人「それなら、ファンクラブに入会してチケットを取ればいいじゃん。」

遠山「それが、ファンクラブはチケットの優先予約はしてくれないんだよ。」

友人「エッ!! 信じられないな。そんなのファンクラブのメリットは無いよねえ。」

 恐らく浜田省吾ファンであれば、そんな話題を耳にした経験はあるはずだ。

 このような、ある意味では非常識とも言えるファンクラブにチケット予約優先権を認めない理由を、浜田省吾は次のように解説している。

「ファンクラブにチケット優先権を認めると、現状ではファンクラブの会員しかライブに参加できないことになってしまう。ファンにはいろいろな人がいて、初めて浜田省吾の音楽に興味を持つ人もいる。ファンクラブ会員しかライブに参加できないことにしてしまうと、そういう人がライブに来れなくなってしまう。それは健全な状態ではないと思う。」

 ここにも浜田省吾の人柄と言うか哲学を感じ取ることができないだろうか?

 ファンクラブが優良顧客となり、イベンターを通さなくてもチケットが完売できれば、ライブ運営もいくらかは楽になるだろう。
 そのメリットを捨ててまで、全てのファンが公平にチケットを取るチャンスを提供しようというのだ。
 その平等や公平を求める意識は、さすがと言うしかない。

 翻って、90年代以降の企業の不祥事を振り返ると、悲しいかな日本には不平等感が充満していることに気が付く。

 古い話になるが、1991年には大手証券会社が自社の優良顧客に対して、株取引の損失補てんや利益の追加をしていたことが発覚した。小規模取引の個人客が株取引で損失をしても、その補償がされることはありえない。
 というか、株取引に関する損失はクライアントの自己責任というのが原則のはずだ。しかし、優良顧客(総会屋だったりするのだが)に対しては原則を曲げて損失補てんを続けたことが明るみになった。(この損失補てん事件を起こした山一証券は、1997年に破綻してしまったわけだが。)

 それから、公共事業に関する談合事件は、昔から現在まで途絶えることなく続いている。大手の業者が落札順を決めて、その順番通りに仕切られる。そして、建設業では工事を下請けに丸投げというのもお馴染みのパターンとなっている。
 巧妙なところでは、仕様作成やコンサルタント業務の入札を格安で落札し、その後の本事業の仕様を自社に有利に設計するケースも後を絶たない。このようなコンサルタント業務入札では「1円落札」なんてことも話題に上る。

 このように、大手企業や公共事業ですら、平等や公平という原則を見失うこともある。もちろん、ビジネスの世界では戦略として、優良顧客やリピーターに優遇策をとるのは間違いではない。
 しかし、利益追求のあまり法令違反をすることに躊躇いを感じなくなるようでは問題だ。それではコンプライアンス(法令遵守)に対して不感症と言われても仕方がない。

 「危ない橋を渡る」とか「やったもの勝ち」という、グレーな仕事ぶりを賛美するような風潮は実に危ういものなのだ。
 法令の網をくぐり抜けて利益をあげたとすると、それを維持するには法令違反を継続しなくてはならない。そんな事を続けていれば、いつかは綻びが出て破滅への道が待っている。

 そのようなグレーな仕事は、組織ぐるみで継承されることも多い。そんな環境に身を置いていると、自分のやっていることが法令違反であるという自覚が薄れることもあるだろう。
 しかし、法に触れることに慣れが生じても、その罪は決して帳消しにはならない。慢性的な法令への抵触行為が続けば、いつかは必ず手痛いしっぺ返しが来るものだ。

 そこで、事業の長期継続性ということを真剣に考えるなら、法令に沿った内容で営業を行い、その上で適正な利益を出すという仕組み作りに励む必要がある。
 そのためには顧客からの信頼を得る必要があり、公平な対応とコンプライアンスの徹底と言うのは最低条件となるだろう。その姿勢を常に示し続ければ、顧客が猛烈なファンとなってくれるはずである。

投稿者 : 2006年04月12日 03:10 [ 管理人編集 ]