« 平和と格差社会 | 浜田省吾のソロ・デビュー30周年記念日です »

理念を示すカリスマ

 浜田省吾は現在ROAD&SKY(ロード・アンド・スカイ)という事務所に所属している。デビュー時にはホリプロダクションに所属していたが、1983年4月1日に独立してROAD&SKYを設立した。(社長は愛奴時代のベーシストだった高橋信彦が務めている)。

 このROAD&SKYを設立して独立するきっかけとなったのは、ライブに関するホリプロとの認識の違いにあったようだ。ホリプロは音楽業界のセオリーに従って、レコードのセールスを第一と考え、ライブについてはレコードを売るための販促活動の一手段と考えていたようだ。
 浜田省吾自身は、それまでのライブ活動に手応えを感じていて、ライブを自らの音楽活動の中心にしたいと思ったのであろう。そこに互いの認識のズレが生じ、浜田省吾は独立する必要性を感じたようだ。
 だからといって、ホリプロと浜田省吾の間に軋轢が生じたわけではない。ファンクラブ会報「ROAD&SKY 61号」の中で、「ホリプロの堀社長には、独立を理解してもらって今でも感謝している」と語っている。
 金銭や人間関係で揉めれば、所属事務所とミュージシャンの間で法廷闘争も含めた泥仕合になる事例もあるが、浜田省吾の場合はそのようなトラブルとは無縁だった。それは浜田省吾の音楽に対する姿勢が明確で、ホリプロもその信念に納得できるところがあったからだと想像できる。

 晴れて新事務所を作って独立することになった浜田省吾は、事務所名をジャクソン・ブラウンのアルバム「LATE FOR THE SKY」の5曲目に収録された「ROAD&SKY」から引用した。

 このROAD&SKYという名前に込める思いについて、浜田省吾は次のように語っている。

「ROADという言葉は、ON THE ROAD、つまり永遠に続くツアー。」

「SKYは無限に広がる音づくり。つまりレコード制作。」

 ライブ・ツアーと音楽製作をイメージして、それを事務所名にするのは浜田省吾らしい。スタッフやファンに対して、ライブと音楽製作を通じて活動していくというメッセージが明確にされている。
 理念や目的がハッキリしていれば、周囲も安心するものだ。カリスマやリーダーと呼ばれる人達は、活動の理念を熱く語らねばならない。その義務に対して、浜田省吾は答えを用意していたのだ。

 しかし、独立直後のROAD&SKYには難問が立ち塞がっていた。それは1983年8月に、福岡県の海の中道公園で大規模な野外コンサートを企画したことだ。
 ライブで生きていくことを宣言した浜田省吾とROAD&SKYにとって、これは失敗が許されないイベントだった。集客が思うようにいかなければ、大赤字となり事務所がいきなり潰れるリスクもあった。

 傍観者の立場で眺めれば、何も独立直後の資金の厳しいときに、事務所の命運を賭けるような冒険をしなくてもと思ってしまうところだ。
 それだけ浜田省吾はライブにこだわり、大規模な野外コンサートを成功させることで道を切り開きたかったのだろう。

 結果として、この海の中道公園の野外ライブは18,000人を集客し、大成功となった。この年の浜田省吾は、138回の公演を行い約258,000人を動員している。その7%近い集客を海の中道で達成したわけだ。このときの感動は忘れられないと、様々なインタビューで答えている。

 このようなイベントを成功させるためには、スタッフの協力は不可欠だ。資金や日程に余裕は無く、関係者がどれだけ本気で尽力できるかにかかっている。
 無謀ともいえる企画を押し通すには、周囲やスタッフの理解無しには進まない。

 どんな職場でもそうだが、無茶な計画や業務命令は従業員のモチベーションを低下させる。例えば、月末締め日の直前になって、「今月の予算は200%上方修正する」と言われたらどうだろうか?
 ほとんどの人は、その時点で「終わってるな」と冷笑するだけだろう。実際に上方修正された新目標に対して努力するわけは無い。

 同じように、一歩間違えれば浜田省吾のライブ優先の活動は頓挫するリスクはあったと思う。それを回避して、ライブの帝王の座を獲得することになったのは、スタッフの努力であり、リーダー(またはカリスマ)としての浜田省吾の力量であろう。

 人は無謀な目標や計画にはついて来ないが、理念に共感できるところがあれば動くものだ。単に上位下達で目標を押し付けるのではなく、理想を語り、その実現への道筋を予感させるリーダーがいる組織は結束が強固となる。そんな組織は常勝集団となるだろう。

 ただ、浜田省吾も何の見込みも無く無謀な大規模野外ライブを企画したわけでは無いだろう。前年までのライブの手応えを感じていて、この流れなら冒険はプラスに作用するという読みはあったはずだ。
 何の根拠も無い(マーケティング調査に基づかない)冒険であったなら、周囲を説得できずに企画実施すらできなかったであろう。

 あらゆる組織のリーダーは、現実の成績をベースとして把握しながら、将来を向いた理念を語らなくてはならない。そして、その理念に共感するスタッフに恵まれたなら、リーダーは組織内のカリスマとなり、事業の成功は約束されるだろう。

投稿者 : 2006年04月12日 03:29 [ 管理人編集 ]